2025.12.27 Category:kuriya手帖
今回のテーマは 「食いしん坊の台所道具」。
kuriya流“食いしん坊”とは、単に“たくさん食べる人”ではありません。
食べること・作ることがごくごく自然に暮らしの真ん中にあるような人たち。
――そんな“食いしん坊”たちの台所、ちょっと覗いてみたくなりませんか?
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道具がつなぐ、記憶と縁の循環
樋口あやさん(麹香 きくこう)
麹の魅力や四季折々の手しごとをていねいに伝える樋口あやさん。
kuriyaでは甘酒の販売、麹を使ったワークショップでおなじみです。

そんなときにあやさんが持参される、カゴや道具がいつも気になっていました。
どこか静謐な空気が感じられ、きっとあやさんが選ぶものはブレない信念のようなものがありそう…。
そう思ってお話を伺うと、我々が思っていた以上にあやさんの道具そのものへの深いまなざしと、人との縁や記憶が静かにつながっていくようなエピソードの数々がありました。
手を動かすことで見えてくるもの
5年ほど前、あやさんはずっと探していた鰹節削り器に、思いがけず出会います。
「ずっと欲しかったんですがどこにもなくて。そしたらある日、kuriyaさんで見つけて……ここにあったんだ!と。すぐに買わせていただきました」

削りたての鰹節は、冷や奴にのせたり、出汁をひくために使うそう。
けれど道具を手にした喜びは、味だけではなく“過程そのもの”でした。
「今は手間と思われることも、私はとても楽しくて。
削って、引き出しを開けた瞬間の香りが、本当に幸せなんです」
シャッシャッと軽やかに削る音。
ふわりと立ちのぼる香り。
繰り返し整っていくリズム。
その一つひとつが、ゆっくりと記憶を呼び起こします。
「50代になってからでしょうか。急に、昔の景色をふあーっと思い出すことが増えたんです。
祖母が削り器を使っていた姿や、家族と暮らした日々……それってすごく幸せでプレゼントのような日々だったんだなあ、と」
あやさんの道具へ探究心は止まらない。ある日、ほかの人の削る音が気になって試しに聞き比べてみたという。
「人によって音やリズムが全部ちがうんです。きっと、その方ごとに受け継いできた音なんだろうなと感じて……こういうのって細胞のどこかに刻まれているのかもしれませんね」

職人の手しごとでていねいに作られた削り器は「手入れもほとんどしていないですね。刃をとんとんと軽く整えるくらいです。作りが丈夫なんですよね」
※現在、kuriyaではあやさん所有の引き出しタイプは取り扱いがありません。老舗のかんな製造元の山谷製作所が手がける台屋の鰹節削り器を販売中。
大久保さんの木べらとの再会
次に語ってくれたのは、大久保ハウス木工舎さんの木べら。
「最初に出会ったのは、長野にある“アルプスごはん”さんという小さな食堂。料理人の方が使われていたすり減ったへらが印象的で。でもそのときは、正直“ふーん”くらいで流しちゃったんですよ」
それからしばらくして、kuriyaでそのヘラに再会した。
「『あ、これ見たことある!』って。そうしたらkuriyaスタッフの方がすすめてくれました」
実際に手にしてみて、「ああ、そういうことか!」と実感したそう。

「このへらは、本当に手触りがいいんです。持ったときに“すっと”馴染むというか……。とてもよく考えられて作られているなあ、と思いました」
あやさんは木べらをたくさん持っているそう。けれど、その中でも大久保さんのへらは特別なんだとか。
「大事にしすぎて、実はあまり使えていないんです・笑。
色がつきそうなときは避けて、“ここぞ”というときだけ使うんです」

“ここぞ”とは、つまりていねいに調理すること。「大久保さんの木べら」を手にしたならその意味がわかるはず。鍋肌を傷つけない木肌、手になじむ絶妙な角度。ただ炒める作業も喜びにかわる、そんな道具です。
道具は、自然と人のあいだにあるもの
あやさんが大切にしているのは、道具そのものよりも“道具の存り方”。
「道具って、自然と人間の間にいてくれるものだと思うんです。生きながらえているというか、呼吸している感じがする」
だからあやさんが選ぶのは、自然素材の道具が多い。
「食べ物から見ても自然素材のほうがうれしいだろうな、と思うんです」
例えば麹をつくるとき、ぺたぺたとくっついて取るのは手間だけれど、使うのはさらし布。
「お米が喜んでくれる気がするんです」

創業100年以上となる大阪の武田晒工場からうまれたブランド・さささの和晒しをkuriyaではお取り扱いしています。ロールタイプ、カットタイプあり。
ほかにも味噌の仕込みにはぜひ木桶を使ってほしいとのこと。
なぜなら「次元が違うほどおいしい」から。
「木桶の板の厚さって1㎝くらいなんですけど、その1㎝の内と外で世界が違う。中ではカビも生えないんですよ。その境目に何があるんだろうって」
そんなふうに五感をひらいて台所で繰り返される小さな発見。
その一つひとつが、あやさんの暮らしを豊かにしている。

木のもの・布・ガラスなどの自然素材のものはあたりがやわらかい。麹も味噌も自然素材に触れていると静穏な時間が流れるよう。
「味噌造り教室で使う麹も、ほんのりあたたかさを感じるくらいでお渡しします。私からはあえてお伝えしませんが、生徒さんが麹が生きている感覚を感じていただければな、と」
これらの言葉からは、“道具も素材もひそやかに生きているもの”そんなあやさんの眼差しが伝わってくる。

kuriyaで開催した「麹香さんの味噌仕込み」教室の様子。自分の手で仕込むことで、ほんのりとしたあたたかさを感じられる。発酵して育てていく過程も楽しみ。
今、大切にしている“おいしい時間”
かつては食べ歩きが大好きで、旅先では必ずおいしい店を探していた、あやさん。
けれど今は、手作りのおにぎりとお漬物を持参することが増えたそう。
「やっぱり、おうちのごはんがおいしいんですよね」
その一言に、あやさんがていねいに積み重ねてきた食の時間すべてが含まれているように思えました。

「ぬか漬けの会」は春・夏2回開催。100年続くぬか床は、少しずつ増やしたり交換したりして繋いできたもの。ぬか床の様子やぬか漬けの味わいが変わるのがおもしろさのひとつ。 日々、発見とよろこびがあるのだそう。
「昔のほうが、きっと五感をたくさん使っていた気がするんです」
ただ道具を使うだけではなく、五感を大切にし、受け継がれてきた音や香りの記憶にも想いを馳せるーー“手間の中にある豊かさ”を知る人の言葉だなあとしみじみと感じ入りました。
あやさんのお話を伺ううちに、私たちも自然と自分たちの記憶を辿っていました。自身の小さい頃の思い出を誰かに話したくなる、そんな気持ちが呼び起こされるようでした。
麹香(きくこう)/樋口あやさん
海と山に囲まれた佐世保を拠点に、麹の魅力や四季折々の手しごとを丁寧にお伝えしています。ひと手間ひと手間を大切に麹と向きあう日々、そんな作り手・樋口さんの思いが伝わるような麹や甘酒からは、しっかりと芯のあるちからを感じていただけるはず。自家製の麹を使った酵素シロップ、お味噌、お漬物の教室をkuriyaでも開催しています。
今回、皆さんにお話を伺ううちに、道具や記憶の力を擬似体験しているような不思議な感覚がありました。
このテキストから、私たちkuriyaスタッフが感じた多幸感が少しでも伝わるといいなあと思います。



kuriya流“食いしん坊”とは、単に“たくさん食べる人”ではありません。
食べること・作ることがごくごく自然に暮らしの真ん中にあるような人たち。
店頭では、ここでは紹介しきれなかった愛用品も紹介いたします。
ぜひ実際にお手にとってご覧ください。
↓ ↓ ↓ 食いしん坊の台所道具vol.1とvol.2はこちらから ↓ ↓ ↓
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